会社帰り、スーパーに寄ったときのことだ。
ふとカツ丼が食いたくなったので、惣菜コーナーの名物である「ジャンボトンカツ」を買いに行った。

ポカポカと暖かい惣菜コーナーには先客がいた。
二十歳代、というカンジの若い女性が、トングを片手に、なにやらじーっ…と固まっている。

心の声:ん…何を買おうか悩んでいるのかな?

しかし女性は、コロッケの一つをトングで挟んだまま、文字どおり”身じろぎ一つしない”。
やがて女性は、まるでそれが爆発物であるようかの慎重さで、コロッケからそーっとトングを放した。
そして、そーーっとトングを置き場に戻そした。

心の声:買うのやめたんか。だったらどいてくれんかな。ちょっと邪魔なんだけど…。

そのまま立ち去るかに見えた女性、惣菜コーナーの一角を目に入れた途端、「あれっ?」という具合に首をちょっとひねり、今度は素早い動きで再度トングを手にした。

心の声:な…なにがあったんだ?!!

女性はトングを、さっきのフライとは別のトレイに載っている俵型のコロッケに向けた。
そのトレイにはコロッケが3つ載っていたが、2つは整然と並び、1つは離れたところに転がっていた。

心の声:も、もしかして…?

予想通り、女性はその一つ離れているコロッケを、カサリとも音を立てずにトングで掴んだ。
そして、実にじっくりと持ち上げ、それ以上に時間をかけて、彼女の内面では「在るべき場所」と思われているらしい場所へと置いた。
もちろん、置いてからトングを放すまでは、最初に見たコロッケの時のように、とても時間をかけた。

よくよく見れば、惣菜コーナーのフライ、コロッケ、カツ類は、すべて整然と並んでいる。それこそ寸分の狂いもなく。

心の声:なっ、並べ直しマニアッ???!!!!!

女性は、実に満足した笑顔を浮かべ、惣菜コーナーを去った。もちろん彼女自身は、惣菜コーナーでは何一つ買っていない。
それどころか、店内カゴすら持っていなかった。

彼女は、ただ、「並べ直し」に来ただけだったのだ…。

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